2011年06月23日

「わたしを離さないで」

1000000974この前の日曜日「わたしを離さないで」を観た。
原作:"Never Let Me Go"
著者:カズオ・イシグロ
イシグロ氏は1954年長崎で生まれた。
5歳の時に父親の仕事の都合で英国に移住。
1989年"The Remains of the Day"「日の名残り」でブッカー賞を受賞
今の国籍は英国で、残念ながら日本語はほとんど話せない。

さて、お話
時代は1978年〜
最初の舞台は英国内のとある場所にある「ヘイルシャム」という寄宿学校。
キャシー、ルース、トミーの3人が主な登場人物で、キャシーが回想する形で物語が展開する。
まずは寄宿学校での生活の様子が描かれる。
徹底した健康管理と子どもらの腕に取り付けられたセンサーに異様さが感じられる。
また、カフェで飲み物を注文する練習をするような授業もあったりする。
そのくらい実社会から隔離された特別な世界ということか...。
寄宿学校の生活規則が厳しいというのはよくある話だが、あまりに異常。
やがてその理由がわかってくる。
ここで生活している子どもたちは、クローン人間なのだ。
しかもただのクローンではない。
将来、臓器を提供するドナーとなるために作り出さたクローンなのだ
18歳になるとキャシー、ルース、トミーはヘイルシャムから「コテージ」という別施設に移り、他の寄宿学校の出身のクローンたちと共に、臓器提供をするその日を待つ生活に入る。
クローンといっても見た目も中身も普通の人間と何ら変わりはない。
幼い頃はとにかく大切に育てられ、教育もしっかり受け、特殊な環境下にありながらも、彼らは友情、裏切りといったことを経験しながら成長を続けていく。
ともすればSFっぽい舞台設定だが、余計な説明がされないので、あくまでこの舞台はメタファーでしかないということが見る側に伝わるようになっている。
時代が未来ではなく過去にしてあるというところからも、「こんな未来が訪れるかもしれない」ということを描きたいわけではないということがわかる。
やがて一人、また一人と悲しい結末が訪れるのだが...

実は、この映画を観に行く前日、録画しておいた「カズオ・イシグロをさがして」というNHKの番組を観た。
作品についてイシグロ氏は次のように語っている:
「『人生は短い。故に尊い』とだけ言いたかったわけではない。
 人間にとって何が大切かを問いかけたかった。
 (そういう意味で)設定は有効だった。
 人間とは何か
 クローンは「人間」なのかと考え始めるからだ」
また
「人生の短さを感じた時、我々は何を大切に思うだろうか
 この作品は悲しい設定にも関わらず
 人間性に対する楽観的な見方をしている
 この作品は人間性に対し肯定的な見方をしている
 人生が短いと悟った時、金や権力や出世はたちまち重要性を失ってゆくだろう」
「人間が利益や権力だけに飢えた動物ではないことを提示している。
 赦し、友情、愛情といったことが、人間を人間たらしめる上で重要なものなのだ」

原作者本人の言葉だけに本作品のメッセージは上記の通りだろう。
ただ、僕はどうも気になるところがあった。
本人が「有効だった」と語っている舞台設定だ。
あくまでメタファーなので突っ込まなくて良いとは思うのだが、あまりにもドナーたちからまったくもって不満らしきもの、不条理に対する怒りというか、そういうものが感じられないのが、あるいは描かれていないのが不思議でしょうがなかった。
もしかすると、原作にはそういった不要な感情や思考回路を防ぐための教育プログラムが施されるシーンが書かれているのかもしれないが、少なくとも映画では皆無であった。
元々あり得ない設定だけに、倫理だの人権だの言い出したら主眼も何も見えなくなってしまうので「そういうもの」として話を進めているのはよくわかる。
だけど、どうも何かが気になってしょうがなかった。

先のテレビ番組によると、イシグロ氏が最初にこの作品を書こうとしたのは1990年で、その時は途中で断念したという。
数年後、再び取り組んだもののこれまた断念。
2001年に3度目の挑戦し、2005年ようやく出版に漕ぎ着けた。
インスピレーションで書くタイプではないので、アイデアを得た後、じっくりと時間をかけて練り上げる。


小説は、物語を通して読者に言外のメッセージを伝える。
著者は、読者をより自然に作品の世界に引き込めるよう、舞台設定に細心の注意を払う。
そして時には、虚構である舞台設定そのものがメッセージであったりもする。
っと、なぜこのようなことを書いたのかというと、
イシグロ氏は、大学院卒業後、24歳の時にホームレスのための福祉施設で働いたことがあり
「もしその仕事をしていなかったら、私は恐らく同じ中流階級の人々としか出会えなかった
 私は追い詰められた人間に対し、ある種の敬意を持つようになった」
と語っていた。
また、
「大人へと成長する過程で子どもたちはある種の失望感を覚えるのではないでしょうか
 世界が優しい場所だという記憶がまだ残っているのですから」
とも。

ふと思う:
クローンたちがこの不条理をどのように受け入れたのかの説明が足りないと僕は感じたが、もしかすると、英国人はまったくもってすんなり受け入れることができたのではないか、と。
「そう生まれたら→そう生きる」
「ヘイルシャム」はそれほど特殊ではない、実社会も同じ。
バリバリの階級社会の英国はまさにそういう社会。
僕が感じていた「気になるところ」は、「説明不足」ではなくて、この「感覚の違い」だったのかもしれない。
そして、イシグロ氏の凄いところは、英国人にすんなり受け入れる設定を構築しきったところだろう。
フィクションを装いながら、その実、この過酷で非情な現実世界を描くーしかも単なる批判や風刺にならないようにーそりゃ何度も断念するわ。
ブッカー賞を受賞した「日の名残り」は、「こう描いてくれたら英国人が喜ぶ」というところを描ききっているらしい。
イシグロ氏は英国人ではあるものの、日本人的視点も持っているので、独特の奥行きが描けるのかもしれない。

さて、鑑賞後、決して気持ちの良くなるものではなかったけれど、メインの登場人物3人を演じた役者はいずれも素晴らしかった
1000000978主人公のキャシー・Hを演じたキャリー・マリガン。
昨年、「17歳の肖像」(観てない)でアカデミー賞にノミネートされたらしいが、そんな立派な女優の雰囲気をまったく感じさせない、まるでこれが初仕事というような初々しさが感じられて役にピッタリだった。

1000000979独善的で少し屈折した性格のルースを演じたのはキーラ・ナイトレイ。
彼女も「プライドと偏見」でアカデミー賞にノミネートされていた。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」3部作に出ているらしいので彼女が一番有名なのかな。

1000000980ふたりに想われるトミー役を演じたのはアンドリュー・ガーフィールド。
話題の「ソーシャル・ネットワーク」に出演しているようなので、そう考えるとなかなか豪華なキャストだったんだなぁ。
これからが楽しみというよりも、既に人気の役者さんたちだったのね。

1000000976そうそう、驚いたのが、キャシーの子ども時代を演じたイソベル・メイクル=スモールという女の子(最前列左)が、キャリー・マリガンのイメージそのもので感心した。

ところで、"Never Let Me Go"というタイトル、これはイシグロ氏が村上春樹氏から貰ったジャズのCDからつけたらしい。
ググってみたが、誰のどの作品かは不明。
イシグロ氏か村上氏、本人から直接聞くしかわからないのかな。
ご存知の方、教えてくださいw



waits2 at 18:43コメント(2)トラックバック(0)映画 | 海外 

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コメント一覧

1. Posted by みるくパパ   2011年06月24日 08:37
一昔前まではSFの世界の話だった「クローン」ですが、
もう現実の世界になっていますよね。

「倫理」と言う非常にあやふやなもので、
クローン人間の開発を抑制していますが、
「倫理」が通じない国や人が結構あったりするから・・・

起こり得る「現実」として考えていく必要のあることだと思いますね
2. Posted by 風太   2011年06月24日 11:06
どうもです、みるくパパさん
医学の進歩は凄いですよね。
今はiPS細胞とかの技術がかなり進んでいるみたいなので、ドナー目的のクローン人間の心配はないでしょうね。
将来、デバイスを携帯せず、肉体にデバイスを埋め込む形でインターネットに接続できるようになるとか。
常識的な情報は誰もが共有することになるので、アイデア力こそが個体差になっていくのでしょうかね。
あ、クイズ番組がなくなりそうですねw

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